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Afterword to the Newsletter: [Pen Relay]
  秋田市医師会報のあとがき「ペンリレー」のご紹介です。
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秋田赤十字病院 岩谷 真人
見上げると曇り空にバタバタとヘリコプターが飛んでいる。スタート地点となった都庁周辺の道路には3万5千人がひしめきあっていた。思えば気楽にインターネットで申し込み、当選通知を受け取ってから4ヶ月間、必死で練習した。みぞれ降る夜、路肩に車を停めたアベックから煙たそうににらまれながら、町内をぐるぐるまわった。正月も休まず走った。
 スタートは目標タイム順であり、5時間と設定した私はAからKのうちのJブロックだった。まわりには普通のスニーカーを履いている学生やビデオカメラであたりを撮影している人がいたりして、記録にチャレンジするストイックな雰囲気はない。スタート時間が近くなると、はるか前方で行われているセレモニーの音声がどこかに設置されているスピーカーからわずかに聞こえるが、内容は全く聞き取れない。やがてスタート時間になると遠くで歓声が上がり、私たちもぞろぞろと歩き始めた。横を見ると道路に入りきらずに公園内で待機しているKブロックの先頭で、「やろうども、いくぞー!」「おー!」と気勢をあげている集団がいた。タレントの松村邦洋だった。この後心筋梗塞で倒れる彼もこのときは元気一杯だった。徐々に列の進むスピードが速まり、角を曲がるとスタートラインが見えた。みんながスタートライン横の高い台に向かって手を振って走っていく。台からは石原都知事がうれしそうに手を振っていた。私も同じように手を振ってスタートラインを越えた。スタート直後は混雑防止のためか道路の端から端までがコースとなっており、まだ元気のいいランナー達が広大な道路一杯に広がって思い思いのスピードで走っていく。まるで映画でみるパニックになった群衆といった感じだ。でも、もし実際にゴジラが出てきたらとても逃げ切れないだろうと思うくらい、巨大なビルと比べて群衆の走るスピードは遅く、始まったばかりの長い道のりが思いやられた。
コースは10kmまで下っていくが、この序盤を抑えて走るのが鉄則だそうで、私ものろのろと走った。そして10km地点の皇居を過ぎると早くも反対車線を走る先頭集団がすれ違った。ものすごいスピード・・。彼らはまもなく20kmに到達する。私は品川へ向かうまっすぐな道路を、美しい走りのおねえさんの後をつけて人ごみの間を縫うように走った。15kmにある折り返しの給水でおねえさんを見失った後は、美しい走りのおじさんの後をつけた。
 20kmを過ぎると、途端に苦しくなってきた。思えば練習でも20kmまでしか走ったことがないのだ。限界かもしれない・・。どう見ても参加者より若くて溌刺としたボランティアが「医師」という腕章を付けて軽快に追い越していった。ここで初めてバナナの給食があった。今まで食べたことがない短いねばねばのバナナだった。甘くておいしい。おかわりした。また、銀座に入ると雨が降ってきた。時々強い風も吹くようになった。この雨とバナナのおかげで体力がよみがえってきた。銀座通りを浅草寺に向かって私は颯爽と走った。かっこいい・・・。道路の端をごぼう抜きしていった。沿道の応援は人垣といえるほどのところもあり、絶えることはない。参加者の家族や知り合いも多く、「父ちゃん頑張れ、生きて帰って来い」などと書いたプラカードをふっている。
 調子がよかったのはたったの5kmだった。28km浅草寺で折り返すと足が重くて全く上がらない。参加者がばらけてきたこともあり、それまでは他人事の様に聞こえていた沿道の声援も直接私に「がんばれー!」とむけられるようになっている。そちらを向くと愛想笑いしなければいけないので、前だけ向いて鳥肌を立てながら歩くように走った。とにかく意地でも「完走」してやる。周りを見ても歩き出す人や、ストレッチをする人が出てきた。30km地点で時計を見ると3時間だった。沿道で「今から頑張れば4時間切れるぞー。」と叫んでいる。きっと残念ながら抽選に漏れた人だろう。でもあと1時間で12kmは絶対に無理だ。ふいに近くで携帯電話が鳴った。すぐ前を走っている見上げるような大きさの外人だった。落ち着いた声でどうやら仕事の話をしている。そんな余裕があるのなら何でもっと速く走らないんだよ。
 この苦しい状況を打開するのはバナナしかない。限界の私は5kmごとの給食所でむさぼるようにバナナとアンパンを食べ、沿道のおばさんが差し出してくれたアンパンまで食べた。また、懺悔すると給食の時にバナナを食べたり、スポーツ飲料を飲む振りをして「立ち止まる」のを楽しみにした。おにぎりに味噌汁を振舞っている人もいて、軽く賑わっていたがさすがにやめた。
 35kmを過ぎると再び体力が回復してきた。コースは埋立地の海へ向かっていくために大きな橋がかかり、上り坂がでてくる。歩き出す人達を尻目に、またしても私はどんどん追い抜いていった。雨と向かい風が強くなってきたが気にならなかった。長い上り坂をいくと、路肩に停めた車からロッキーのテーマが大音量で流されていた。「エドリアーン、エドリアーン」とつぶやきながら走った。橋の上では一般の応援の人は誰もいなくて、吹きっさらしの中、50mおきにボランティアの人が立っていた。いかにも陸上やってたふうのおばさんが、「ラスト、ラスト!」と声を掛けていた。
 40kmになった。時計は4時間だった。練習している時の目標は4時間だったので、達成ならなかったが十分頑張ったと思った。沿道の人達にもお礼がしたくて、雨の中お父さんに支えられながらガードレールに乗って手を振っている女の子とハイタッチした。
ゴールは東京ビッグサイトで、最後の数百mは特設スタンドが組まれていた。かっこ悪いような気もしたが、力を余すのも嫌なのでラストスパートした。ゴールすると直後に、場内放送がタレントの安田美沙子のゴールを告げた。ラストスパートしてよかった。
一度立ち止まると、もう肢ががくがくでやっと歩いた。流れに沿ってシューズのICチップを切ってもらい、バスタオル、スポーツドリンク、みかん、おにぎり、そして恩人のバナナをもらい、スタートで預けた荷物を受け取って体育館にはいった。うれしくて、後ろにいた女性に話し掛けた「このバナナおいしいですよね。」
 体育館の床に座り込むと、雨で体に密着したタイツやシャツを脱ぎ、着替えた。足の爪は左右とも2本ずつ黒く変色していた。
 よちよちとゆりかもめの駅に向かうと、外は暴風雨だった。お世話してくれたボランティア、声や食べ物で応援してくれた沿道の人に感謝しながら私の東京マラソンは終わった。

  次回は秋田大学医学部サッカー部の先輩 秋田組合病院整形外科の小林孝先生にお願いさせていただきました。




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