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Afterword to the Newsletter: [Pen Relay]
  秋田市医師会報のあとがき「ペンリレー」のご紹介です。
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父を想う
介護老人保健施設ふれ愛の里 進藤 和夫
 間もなく仲間入りを覚悟しているせいか、亡くなった両親、兄のことを時々思い出す。九十三歳で逝った母は別格としても父、兄の享年にも達していない私としては、この二人には負けまいと思っている。つまり、もう3,4年は頑張らねばならない。始めに父の思い出を語らせてほしい。ただ、数十年前の話だから多少は日時の誤りや、事柄の思い違いもあるかもしれず、予めお許しを乞う次第です。
 父は職業軍人だったから、戦火の間近さを思わせる昭和のはじめには家庭生活を顧みることは無かったようだ。昭和6年生まれの私は、子供時代に父と遊んだ記憶は全く無い。殊に、小学校に入った昭和13年(1938)は日中戦争が勃発し、父は秋田第17聯隊から支那(中国)派遣軍の一員として出動の連続で、家族とは年に数日位しか顔を合わせることは無かったそうだ。
 貴重な思い出の一つは、一時帰国したとき姉と二人を連れて追分駅付近の梨畑に行き、沢山の梨を買ってもらったことだ。(当時の追分地区は一面の梨畑だった、と記憶している。)子供心にも余程嬉しかったらしく、70年以上を経た今でも思い出は鮮明だ。
 たまに帰ってきても父は戦争の話は一切しないので、私は父がこれから危険地帯に行くのだという認識は持ったことが無い。軍人の倅のくせに、私の持つ戦争というもののイメージは絵本、映画、新聞から知るだけで、世間一般の子供達と変わりは無かった。
 ただ、まだ小学生の頃、新聞に“進藤部隊長重傷を負う”という記事が載ったような気はするが内容は忘れた。母の心配はさぞかしだったろうと思うのだが、家族、親戚内ではそれ程大騒ぎしたという覚えはない。軍当局から生命に別条は無いとの内報でも入っていたのだろうか。結局、父は現地の病院での治療を終えると、休む間も無く再び戦陣に復帰することになる。このことは甚だ勇敢な愛国美談だと私は思うのだが、当時の報道では特に取り上げられたふしは無い。
 さて、終戦となって間もなく帰国した父は、家族ともども大仙市(旧・仙北郡荒川村)の父の実家近くに転居することになった。私が(旧制)中学の3~4年生(昭和21~22年)の頃のことである。多分、その地の大百姓の当主である父の兄を助けて、農・林業を生活の糧とする心積りのようだった。ところがその後、公職追放令を解かれた父は村政に担ぎ出され、助役や村会議員、村会議長、そして村長を務めたのち、昭和47年、八十歳の生涯を閉じることになる。
 これまでの苦労の集積であろうか、村長をやめた昭和37年頃からは体力の衰えが目立ちはじめ、外出をすることも無くなった。そして死の1年ほど前からは寝たきりとなり、さして丈夫でもない母が介護に当たっていたのを覚えている。私はたまに帰省して母の苦労を見ながらも殆ど手伝おうとしなかった。そして今頃になって自分自身の冷たさや不甲斐なさを恥じている。
 さて、最大の思い出になるが、私は昭和31年に弘前大学医学部を卒業し、愼哲夫教授のおられた消化器外科に入局した。その修行中のことである。父は鼠径ヘルニヤの手術を受ける為、私を頼って弘前までやってきた。簡単な手術だから何もわざわざここまで来なくともと思ったが、田舎政治家にとっては周辺にいろいろと噂されるのを嫌った為らしい。手術当日の午前中は症例の術前検討が行われる。主治医が父の胸部レ線写真を供覧したときのことである。教授をはじめ同席者一同は唖然として声も無かった。胸部写真の背骨に一発の銃弾が食い込んでおり、周囲の胸壁には数個の鉄片が埋まっているではないか。“よく助かったものだ”という教授の声には明らかに驚嘆の調子が込められていた。この胸部レ線写真については現像に当たった技師諸君らの部署でも大騒ぎになり、術前検討の前に私に教えてくれていたので、その場では辛うじて冷静さを保つことができた。そして脳裏には小学生時代に読んだ“進藤部隊長重傷”の新聞記事が浮かんだのだった。しかし、長く一緒に暮らしていた私にさえもこのことは全く知らされていなかったから、父の凄さには改めて脱帽せざるを得ない。
 戦争への批判は頻りであり、私も平和を願う者の一人だが、父の様に命を賭して最前線で戦う軍人、兵士のいることを忘れてはならない。父は戦地での苦難を一言も語ることはなかったが、彼らのそれは我々の想像を遥かに超えている。父は死の前日まで2合の酒を欠かしたことは無く、その酒量は私など足元にも及ばない。そして私はこの4月で父の享年にようやく追いつくのである。


 次のランナーは理事の三浦由太氏にお願いする。私は三浦氏とは特に親しい訳ではないが、私がペンリレーの投稿者探しで弱っていることを、前回のランナーだった小泉純一郎君から聞き、“私でよかったらお手伝いしましょうか”と言って呉れたそうだ。私としては神の助けとばかり、早速、三浦氏に電話して引き受けて下さることを確認した次第。誌上を借りて改めて、そして、重ねて感謝します。



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