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Afterword to the Newsletter: [Pen Relay]
  秋田市医師会報のあとがき「ペンリレー」のご紹介です。
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東日本大震災の復興と恩送り
  吉田 泰二
 ひょっこりひょうたん島の作者であり、直木賞作家でもある井上ひさしさんの恩送りについての記事を新聞(2011.1.12.毎日新聞、余録)で読んでから、この言葉が頭から離れなくなった。記事を読まれた方もいるでしょうが、敢えて簡単に紹介する。
 中学生時代、井上さんは一関市に疎開していた。ある時、本屋から国語辞典を万引きしようとして、おばあさんに見つかってしまった。罰として薪割りをさせられた。おばあさんは「働けばこうして買えるのよ」とその辞典を渡してくれたという。まっとうに生きることの大切さを学んだ井上さんは、40年以上経ってから、一関に行きボランティアで文章講座を何度も開いた。これを井上さんは「恩送り」と言い表している。誰かから受けた恩を直接返すのではなく、別の人に送ることだという。江戸時代に流行した言葉のようだ。私達の行っている医療も、先達から学び、適切な形で患者さんに施す。職業として行う行為だけでなく、それ以外の一言に患者さんは癒され、生きる希望を持ち続けることもある。これも恩送りの一つの形と思われる。
 そんなことを考えていた3月11日、午後2時46分、家がガタガタ揺れだし電気が消えた。電話、道路の信号も消えた。ラジオが、観測史上最大の地震(M9.0)で、宮城県沖に発生したことを伝えた。翌日、電気が復旧した6:50pm頃、TVを見て仰天した。地震の被害は青森県、岩手県、宮城県、福島県、そして茨城県に及び、さらに巨大津波が海岸を襲い、波の高さは5mから15mに達したという。三陸海岸はもとより、宮城や福島の海に近い平野地帯にも高波が押し寄せ、壊滅的打撃となった。津波のテレビ映像は、まるで映画(フィクション)のようであった。
 発生から10日目(3月21日)で、死亡確認された人々は8,805人、これに安否不明の人々を合わせると21,000人を超えるという。避難した人は32万人に及んだ。
 福島県では、この震災による停電で、東京電力福島第一原子力発電所に水不足が生じ、炉心溶融の危険が迫り、小爆発も起った。一号機から四号機まで次々と類似の事故が発生、原発の周囲では高値の放射線量が測定された。燃料プールに海水を放水しながら、電気系統の復旧を計っている。世界中が祈る気持ちで推移を見守っている。
 今回の地震の特徴の一つは震源の広さにある。これまで経験した局所的な震源地ではなく、岩手から茨城にかけての沖合で、南北に500km、東西に200kmという震源域であった。このため最も強い震度は仙台でのM7強をトップに、東北一帯にM5ないし6の地震が広範囲に起きた。まさに未曾有の災害である。
 今は人命救助が最優先、被災地の人達は寒空の下、お互いに助け合いながら必死に家族、知人の消息を探している。
 しかし、この緊急事態の中、残念ながら信じられない出き事が次々と起った。最も頼りになる筈の携帯電話がほとんど不通、電気なし、水道なし、暖房なし、食料なし、医薬品なし、道路と鉄道がストップし物流が停滞、車の燃料なし、が被災地を直撃した。現代は便利が最優先、店には物が溢れ、財布にお金さえあれば恰も不自由はないとされる時代であるにも拘らず、そこには重要な盲点が多くあることを実感させられた。政府や自治体、業界も懸命に知恵を出し合い、対策に奔走している。発生から一週間余りが経ち、やっとその効果が見えてきた。この一週間は重く、長い。のど元過ぎればではなく、私達は正確な評価と対策を講じ、この体験を次の世代にしっかりと伝える責任がある。
 悲嘆に暮れてばかりはいられない。今は復興に向けての準備期間でもある。壊滅状態の町をどうするか。農産業、漁業、防災、医療、福祉、など課題山積である。多額の予算と気の遠くなるような長い年月が必要であろう。
 これをどのようにして克服するか。言えることはそれぞれの町には人々が培ってきた歴史と文化、何よりもその町への住民の愛着がある。知人がいる。支え合う仲間がいる。失われた多くの人々を思い、住民の手で支え合いながら、一歩ずつ町を復興させること、これは次の世代への引き継ぎでもある。一方、神戸には、16年前の阪神淡路大震災で被災し、その時ボランティアに助けられた人達が、今度は東北に行こうと準備を進めているという。いずれも現在の人々ができる恩送りと思われる。つまり恩送りは、決まった形ではなく、善意という心情の表れと考えることもできる。
 井上さんは30年間親しみを持って調査してきたイタリアの都市、ボローニャを訪ねた(2004.3.8.井上ひさしのボローニャ日記.NHKhi-vision)。そこは、市民が中世からの文化と伝統を受け継ぎ、脈々と改良を続けて進歩する自治都市と言われている。人々の自発的な努力によってスキルァップした知識や技術は、市民が誰でも利用できる財産として生かされていることをいろいろな職種を見て学んだ。この番組は井上さんが一冊のスケッチブックを携えて歩き回り、机上とは違った、人々との触れ合いを楽しむ様子も伝えていた。その中の一人、日本に留学したことのあるジョヴァンニ・ペテルノッリさんは、町の中で東洋文化図書館を作り、学生らに開放している。彼は、いずれこれらをボローニャ大学に寄付して、学生も市民も自由に利用できる施設として残したいと語る。これを聞いた井上さん、その考えに共鳴し感動したという内容であった。これも恩送りに通じていると思う。今回、震災からの復興に際して、恩送りという見方を持つことも大切であり、このドキュメンタリーにはそのヒントがあると思われた。
 
 次は、小野幸彦先生にバトンタッチします。



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