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Afterword to the Newsletter: [Pen Relay]
  秋田市医師会報のあとがき「ペンリレー」のご紹介です。
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私の学生時代 受験
松戸眼科医院 松戸 武夫
 これは今から50年前のお話しです。昭和36年(1961年)3月1日の夜、私は、羽後本荘駅から大学受験のため、旅立とうとしていました。行き先は、鳥取県の鳥取市です。当時の受験制度は、現在とは全く違っていました。国立大学は、時期的に1期校と2期校に分かれていました。1期校は、旧帝大をはじめとする伝統校が主で、ほとんどの大学に医学部がありました。しかし、2期校は、新制大学が主体で、あまり医学部がありませんでした。秋田大学や山形大学には、まだ医学部がなかったのです。私は、国立大学以外は、経済的に無理だったので、本州で最も入れそうな大学を探して、鳥取大学に狙いをつけたのです。どういう訳か、鳥取大学は、1期校だったのです。(山陰地方唯一の医学部だったからでしょうか)
 3月1日、その日は、朝から雪が舞っていて、夜には20cm位も積もっていました。駅までおふくろが送ってくれ、私は長靴を履いて駅まで歩いて来て、駅で短靴に履き替えたのです。羽後本荘駅から、夜間急行『日本海』に乗り込みました。4人掛の椅子席の急行でした。(まだ寝台急行とはなっていなかったのです。)あまり眠れないまま、翌朝早く、京都駅に着きました。この京都駅で、山陰本線に乗り換えました。たしか67個のトンネルを潜って、6時間位かかって、やっと鳥取市に着きました。もう、疲れ切っていて、まさに、疲労困憊の極状態でした。
 鳥取駅のベンチでゴロ寝をして、少し休んでから昼食をとって受験生指定の駅前のT旅館にたどり着きました。旅館の部屋で、手足を伸ばして、寝転んでいたら、いつの間にか、そのまま寝込んでしまっていました。何刻か経ってから、『こんにちは、お邪魔します』といって、相部屋のI君(甲陽学院)が入ってきました。I君いわく、『僕は、高校時代、文芸部の部長もやっていたので、一応、慶応の文学部を受けたら、合格したんだけど、親の希望もあって、医学部も受けることにしたんだ。どっちに進むか、合格してから考えるよ』とのこと。
 そして、『僕の好きな詩人は、ランボーで、日本文学では、小林秀雄に興味があるんだよ』と話してくれました。田舎の高校生の私には、全く理解できないので、カルチャーショック。それを察したのか、I君いわく、『ところで、プロ野球はどこが好きとの問い、私は、『小さい時から、大の阪神フアンです』と答えると、『それは良かった、関西では、なんといっても、阪神だからなあー。自分の学校の先輩にも、あの別当薫がいるんだよ』。それからは、阪神タイガースの話で持ち切り、別当、藤村、吉田、村山、小山、と話はつきませんでした。二人で夕食をのんびりと食べ終え、入浴して、さて明日の試験の勉強でもするかと思っていた時、襖の向こうから、『今晩は』と言う若い女性の声が聞こえて来ました。私とI君は顔を見合わせて、はて何事かと、思ったのですが、二人で『どうぞ』と返事をしてしまいました。すると、襖が開いて、若い女性が二人立っていました。彼女たちは『貴方がたも受験生ですか?』と問うので『そうです』と答えると、『これから明日のために、勉強しても、あまり意味がないから、それより、ゆっくり息抜きをしましょう』と言って、『私たち二人も受験生だけど、お帳場からトランプを借りてきたので、皆んなでトランプをしましょう』とのことでした。確かに、明日の入試に、今から勉強しても、あまり意味がないので、私達の部屋にどうぞと招き入れ、隣室の受験生にも声をかけて、5人で7ならべ、ポーカー、婆抜きなどトランプ遊びに興じたのです。
 彼女達は、一人はM嬢(西南女学院)、もう一人は、T嬢(小倉高)との自己紹介がありました。トランプ遊びが終わるころ、M嬢が、『明日の入試の試験場までは、バスで行くのも、タクシーで割り勘で行くのも、ほとんど同じ額らしいから、朝は皆んなでタクシーの相乗りでいきましょうよ』との提案あり、私達も特に、異論なく、M嬢の提案に賛成、すると、彼女は、『この旅館の、他の受験生にも当たってみる』とのことで、結局、T旅館の受験生は、M嬢のもと、朝は、ほとんどの人がタクシーの相乗りとなったのです。M嬢いわく『私は、西南女学院の生徒会長をやっていたので、こういう何か物事をまとめたりするのが好きなのよ』とあっさりしていました。
 その夜、かなり遅くなってから、M嬢とT嬢が自室へ引き上げたので、さて寝るかとなったのですが、私は明日の受験に備えて、鉛筆を削って、消しゴムやナイフなどを整えました。でもI君は鉛筆のチェックも、何もしないので、『I君は、筆記用具は、大丈夫なんですか?』とたずねると、彼はポケットから、一本の万年筆を取り出しました。『僕は高校入学以来、筆記用具は、このパーカーの万年筆一本槍なんだよ』と言って、さらに、鞄からインク瓶をだして、『インクは、このパーカーのブラックに決めているんだ』との返事でした。『えっ、数学の計算や英語も、なんでもこの万年筆一本ですか?』と聞くと、『鉛筆でやっても、万年筆でやっても、間違うものは、間違うんだよ。だから、入学試験もこの万年筆一本で、大丈夫』とのこと。またまたカルチャーショック…
 翌日とその次ぎの日は、試験場には、M嬢のもと、T旅館からはタクシーの相乗りでいきました。入学試験の筆記試験は、3月3日、4日の2日間で終わり、3日目の3月5日の日は、面接試験のみの日でした。2日目の試験が終わって、ほっとして、I君と一緒に旅館の部屋でゆっくりくつろいでいると、女中さんがやって来て『貴方がたは、鳥取砂丘へ行ったことがありますか?』とのこと。『絵葉書で見たことがあるだけです』というと、『それなら、是非、鳥取砂丘を見ていきなさい』と優しく?進言。
 これは、後になって知ったことですが、例年、数多くの受験生を見てきたこの女中さんの目には、私達はあまり真面目な受験生には見えなかったらしく、まさか、合格して、再びこの鳥取の地を踏むことはないであろうと思っての進言だったようです。そうとも知らず、根が素直な?私達は、この進言を真に受けて、3日目の面接試験は、午前中の早い時間内に終わりそうだから、鳥取砂丘の見物に行こうと話がまとまったのです。面接は本当にあっさりしたもので、すぐに終わったので、私とI君、M嬢、T嬢の4人は、試験が終わった開放感に浸り、ルンルン気分で、バスで鳥取砂丘の見物をしてきたのです。そして、鳥取駅で、また会う約束など期待することもなく、北と南に別れたのです。
 3月6日、秋田の我が家に、帰ってきたら、出発時あった雪は、すっかり消えていて、庭には蕗の薹(ばっけ)が沢山顔をだしていて、みちのく秋田にも、やっと遅い春が来たんだなあーと、しみじみと感じました。
 3月14日の朝、近所のKさん宅のおばさんが、読売新聞を手に持って、うちのおふくろを訪ねて来たのです。『お宅の武夫さんの名前が載っていますよ』といって、新聞を見せてくれたのです。確かに、秋田版の大学合格者名のうち、鳥取大学医学部の合格者として、私の名前が載っていたのです。鳥取大学の学生会の合否電報を、一応依頼していたのですが、まだ電報は届かなかったので、本当かな?と半信半疑でした。しかし、その日の昼過ぎに学生会の電報も届き、又翌日には、我が家の朝日新聞にも、私の名前が載ったので、これは本物だなとほっとしたのです。当時は、全国紙の地方版には、国立大学の合格者の氏名は掲載されたのです。(個人情報の守秘義務が、のんびりしていたので)。合格発表のあった2、3日後に、隣県の山形県酒田市の見ず知らずのIさん(鳥取大学医学部1年酒田東卒)から、手紙が届いたのです。
 手紙には、『まずは、合格おめでとう。私より北の出身者が誰もいなかったので、秋田県から合格してくれて本当に嬉しい。自分としては、是非鳥取大学に入学してほしいので、色々と話をしたい。是非遊びにきて下さい』との内容でした。私も暇だったので、次の日、酒田まで汽車で出掛けました。I先輩は『鳥取大学は、田舎にある小さな大学だけど凄く環境もいいし、住みやすい所だから、是非、入学しなさい。東北地方からは、自分一人だったけど、東北の後輩が出来れば心強いから』と熱いラブコールを受けたのです。さらに、『自分は、今大学の男子寮(二人部屋)に入っているけど、同室だった先輩が卒業したので、隣のベッドが空いているから、是非寮に入りなさい。自分が推薦するから、空けて待っています』とまで言ってくれたのです。ここまで言って誘ってくれたので、私も入学することを決意して我が家に帰ったのです。
 4月9日、大学の入学式の日、入学式に参集してきた新入生の中には、T旅館で同室だったI君はじめ、トランプの遊び仲間のMM嬢とT嬢、さらに、T旅館からのタクシー相乗り仲間のM君、Y君等もおりました。結局、駅前T旅館宿泊の医学部受験生11名のうち、なんと7名が合格していたのです。その年の医学部募集人員60名、合格者数63名、競争倍率6.8倍だったことを考えれば、まさに驚異的な合格率だったのです。医学部入学者63名(内女子6名)のうち1割以上の7名がT旅館出身という、まさに、出身校別(私達にとっては出身旅館別?)でも、なんとトップだったのです。この愛すべき、楽しきT旅館出身の新入学生たちをはじめ、実に多士済々の個性豊かな人材の多かった同期の仲間たちとの波乱万丈の6年間の学生生活が、この日から、幕を開けたのです。
 次回は、秋田市の医師のゴルフ同好会(ADC)の先輩、小泉純一郎先生にお願いしました。




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