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Afterword to the Newsletter: [Pen Relay]
  秋田市医師会報のあとがき「ペンリレー」のご紹介です。
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「日本語」迷走中
秋田県立脳血管研究センター 長田 乾
 昨年9月11日に起きたニューヨークの同時多発テロ事件直後は、それまであまり耳にしなかった海外の人名や地名が連日テレビ、新聞に溢れていた。しかしながら、カタカナで表記される名称には統一性がなく、メディアも各社各様で少しずつ違いがあるようだ。例えば、「タリバン」であったり、「タリバ~ン」であったり、また「アル・カイダ」であったり、「アルカイーダ」であったり、「アルカーイダ」と書かれることもあった。名称をカタカナに直すだけでも、発音や音節の切れ目で違いが生じている。
 海外で生まれた新たな用語は、直ぐさまに我が国にやって来るが、それぞれの言葉に見合った日本語訳が誕生することなしに、そのまま使われ始める。ところがわれわれ日本人は、カタカナの長い羅列にはアレルギーがあるためか、あっという間に、わが国固有の3~4音節の短縮形が生み出されて、その短縮形が一般化する。例えば、パーソナル・コンピューターは「パソコン」、ワード・プロセッサーは「ワープロ」、デジタル・カメラは「デジカメ」と云う風になる。こうしたカタカナことばは、外来語(外来語という言葉の響きを忘れかけているような印象さえするが)というよりは、すでに日本語であり、漢字の組み合わせによる対応した用語は考え出す必要性も薄くなっている。「エンタメ」、「オケピ」など規則性のない省略形もあり、そのオリジナルが何であったか考えても直ぐには出てこない。
 外来語と日本語の組み合せが省略される、更に難解な熟語が誕生する。例えば、既に市民権を得ているかと思われる例が、スポーツ根性が短縮された「スポ根」であろう。ただ字面を見ると異様な感じは否めないが、「スポ根ドラマ」、「スポ根物語」など耳から入ってくる響きにはもう慣れていて、直ぐに理解できる。現代用語として既に認識されている証拠である。同様に、日本語と外来語の組み合せ省略形に、「ダントツ」がある、そのオリジナルは「断然トップ」と言うところが短くなって「断トツ」さらに、漢字が消えて「ダントツ」に変化した経緯は理解できるが、こうして省略語をカタカナで表記しているうちに、もとが日本語なのか外来語なのかが分からなくなるのではないかと危倶される。この他にも、「デパ地下」など予備軍が沢山轟いている。
 日本語表記に関しても、難しい漢字はなるべく排除しようという風潮が罷り通っているようで、漢字の代わりに平仮名やカタカナが多用されている。新聞や雑誌では難しい漢字を目にする機会が少なくなっているうえに、パソコン、ワープロの普及で日常の仕事のなかで、漢字を思い出して書くと云う作業が激減している。したがって、漢字の偏や旁の組み合せのおおよそのイメージは持っているので、その漢字を見ると何とか読むことはできる、しかし鉛筆を手にしていざ漢字を書こうと思っても、正確には把握しておらず、悲しいかなちゃんと書くことが出来ないのである。
 しかしながら、こうした漢字文化の逆境にあって、漢字検定(日本漢字能力検定)の受験者数が年々増加し、2001年には180万人近い人が受験していることは、多くの人々が危機感を抱いて漢字を読み書きする力を取り戻そうと努力している現れと推察される。
 「てんかん」、「うつ病」、「るいそう」などの用語は、すでに殆んどの印刷物で平仮名標記が用いられ、普通に受け入れられている。ところが、本来漢字熟語であったものを漢字とカタカナの抱き合せにすると違和感がある。とくに週刊誌やスポーツ新聞の三面記事には、漢字とカタカナを抱き合せた熟語が踊っている。例えば、我々に身近な病名も、本来は漢字熟語であったものが、「胃カイヨウ」と「脳シュヨウ」など漢字半分、カタカナ半分で標記されると些か奇妙な印象を受ける。ところが慣れと云うのは恐ろしいもので、このような標記を目にする機会が多くなると慣れてしまい、いずれ不自然に感じなくなるかもしれない。
 「ブドウ糖」は「グルコース」というカタカナ表記に置き替わろうとしているように、医学研究の分野でも、カタカナ標記が多くなる傾向はさらに顕著で、略語やカタカナ表記でだけではなく英単語がそのまま用いられていることも珍しくない。英単語の中には、強いて日本語に訳すと却ってぎごちない印象さえ受けることがある。例えば、記憶に関する用語で、'digit span'と云う言葉がある。数字をいくつまで即時に記憶することができるかと云った意味を持つ用語である。辞書を調べると、日本語では「数字記憶範囲」あるいは「数字記憶把持範囲」などの用語がこれに対応すると思われるが、これでは一向に要領を得ない。しっくりくる訳語を見つけるのは至難の技である。こうして振り返ると、明治時代の文明開化の時期に、外国から津波の如く押し寄せてきた夥しい数の外来語に対して、適切な日本語訳(漢字熟語)を与えた先人達の英知に敬服する。
 かつて、日本語の学術雑誌に論文を投稿するときには、外来語であっても日本語(訳)が存在する単語・用語は、なるべく日本語を使って書くように指導されたものである。しかしらがら、日常的にカタカナ表記の外来語が使われ、適切な日本語訳を持たない英単語が溢れると、名詞はカタカナと英単語ばかりで、つなぎ言葉が辛うじて平仮名という原稿が増えて、日本語で学術論文を書くことの意義が薄れていくことが危惧される。


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