去る7月19・20日、全国有床診療所協議会「秋田大会」が開催されました。皆様には聞きなれない協議会だと思いますが、日本医師会が主体となり地域医療において病診連携の下、有床診療所の特性を生かし貢献するのが目的です。私は日本医師会会長、厚生労働副大臣、日医総研主席、厚労省医政局長らが出席する中シンポジウムで発表する機会を与えられました。題目は「秋田県における産科有床診療所の役割と今後の展望」としました。 冒頭で日本の少子高齢化が進む中、秋田県の現状をお話ししました。出生数:全国45位、出生率:30年連続全国ワースト、婚姻率:25年連続全国ワースト、人口減少率:13年連続全国ワースト、この10年で分娩数が半分以下に減少、産科有床診療所は11施設から3施設に減少とスライドで示したところ、会場にはドン引きされました。その3施設で秋田県の分娩の約3割を担っており、仮にお産を止めると秋田県の周産期医療は確実に崩壊すると訴えました。 次に産科医業経営についてお話ししました。出産原価(1出産に掛かる費用)は、人件費+直接経費(分娩に必要な機材等)+間接経費(施設維持費等)となります。各経費は分娩数との割り算になりますので、分娩数の減少は全ての経費を引き上げます。当院の試算では出産原価が約60万円となり、実際の出産費用が約50万円ですから、なんと1分娩あたり10万円の赤字です。安全なお産を維持するために人件費、直接経費は減らすことは出来ず、今後も賃上げ、物価の高騰によりむしろ増加が予測されます。それではこの危機をどうやって乗り切るのでしょうか? 国はこれまで30年前の村山内閣のエンゼルプランから、安倍内閣の日本一億総活躍プラン、岸田内閣の異次元の少子化対策などを打ち出してきました。少子化対策の一環として、妊産婦の経済的負担を軽減するために検討会が立ち上げられ議論を重ね、6月に骨太方針として出産費用の無償化という原案が公表されました。ただし分娩が保険適応化されるのか、現在の出産育児一時金50万円に代わる何らかの施策を出すのかは見えていません。無償化は妊産婦さん達には大変喜ばしい事です。全国統一で無償化するならば、現在の全国的出産費用にそれ相応の上乗せがないと、産科有床診療所は経営悪化により潰れます。シンポジウム後、松本日本医師会会長、江口日医総研主席より「是が非でも地方の産科有床診療所を守りますから!」とお声掛けして頂き、少し希望が湧きました。 このように危機的状況にありながら、私はお産を止めるつもりはありません。産科は母児共に無事分娩が終了し退院して医学的に「完治」と思われます。年間300人以上、赤ちゃんを含めると600人以上の「完治」を体現出来るのは産科医の醍醐味ですからね。
|