若いころ、東京行きの飛行機で隣の席だった女性とその夜、渋谷駅前の横断歩道ですれ違ったことがある。人生は多くの出会いで成り立っているが、長く生きていると不思議な出会いを経験する。 私の通った私立A中学には3大奇人なるものが存在した。その一人であるH君と2年生から同じクラスになってしまった。ある日突然に「高校野球の甲子園で、春と夏はどちらが凄いと思う?」と聞かれて「分からない」と答えたら、「春は地区大会で最後に一回負けても出られるが、夏は予選から1回負けたら終わりで・・・・」数分間まくし立て、夏の方が凄いと言いたかったのだろうが、急にこの話になった理由は理解できなかった。 3年生の修学旅行の集合写真5枚全てで、H君の顔はぶれていたり、人の後ろだったりと、はっきり映る写真がなかった。彼も医者の子弟で私と違う高校に入学したので、その後、彼の記憶はほぼ消えた。 それから凡そ30年後、麻酔科関連の東北地方会が秋田大学主管で、盛岡で開催された。特別公演は現在では常識の成分輸血に関して、東京のある大学のH先生に講師を依頼していた。その頃、私はよく特別公演講師の担当になった。しかしその講師が午後の一般演題が始まっても到着しない。特別公演の1時間前になっても現れない。迎えに出たから早く来るわけでもないが、何となく玄関前まで来てしまった。向こうから黒のバックを持った男がブラっと歩いて来た。近づいて「H先生ですか?」「はい、そうです」「お待ちしていました」「私の妻が盛岡の出身でね・・」
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