少し前のことだが、泌尿器科医として大変貴重な経験をした。毎年の健診のエコーで左腎の下腎杯に結石があることは10年以上前から知っていた。しかし症状はなく一生動かない silent stone だろうと放置してきた。それが、6月のある早朝目覚めると、左下腹部と腰背部がジリジリと痛み出し尋常でない。もしやあの結石が落ちてきたのかと、勤務先の救急外来を受診することにした。最初は妻に運転してもらおうとしたが、しばらくすると痛みが和らいだので自分で運転して行くことにした。ところが、運転中にまた痛みだし、脂汗を流しながらも到着。(危険ですね。教訓:痛みには波がある。)早速、CTを撮ってもらったら案の定、第4腰椎高に長径5mmの尿管結石であった。鎮痛座薬を入れ、さらに鎮痙抗コリン薬を2回内服し、少し休んでから外来診療を開始しようとしていたら、次第に痛みが強くなり、ついに急性心筋梗塞、群発頭痛と並んで三大痛い病気のひとつを体験することになった。尿管結石の痛みは結石を押し出そうと尿管が攣縮する疝痛発作と、腎盂内圧が上昇することによる腰背部鈍痛であるといつも患者さんや学生に教えていたが、実際はそのように分けられるものではなく、ジンジンと焼けるような痛みが左側腹部から腰背部にひろがり、唸り声を抑えることができなかった。やっとのことで外来看護師さんに助けを求め、ストレッチャーに乗って救急外来に逆戻りし、アセトアミノフェンを急速点滴してようやく治まったのである。当直医マニュアルにはジクロフェナク座薬あるいはペンタゾシンが推奨されているが、極期には絶対にそれでは足りないと感じた。早く決着をつけたいと思い、即日入院のうえ同僚から体外衝撃波結石破砕術を施行してもらった。結局破砕できず、逆に局所的に尿管炎を起こして浮腫んだのであろう、それから一週間以上結石は全く下降しなくなってしまったのである。判断ミスであった。2日間入院し、ジクロフェナク座薬1日2回、鎮痙剤とロキソプロフェンを1日3回で何とか痛みをコントロールした。いつ薬が切れて激痛がおそってくるかと思うと非常に不安であった。10日もしたころ、ようやく結石が下降してきた。すると痛みの強度と頻度が比較的軽くなったような気がした。おそらく、上部尿管と下部尿管では支配神経が異なるからではないかと考察した。そして2週間が過ぎたころ、まったく何の前触れもなく、小便器に黒いものが出たので、流される前にとすかさずつかみ取ったのである。レントゲンで見た形全くそのものの結石であった。最悪の場合、同僚の手による経尿道的手術を覚悟していただけに、最高の喜び、安堵感を味わったのであった。私は前立腺肥大症だし、明らかに過活動膀胱でもある。自らが体験したことは日常診療にも多少活かせていると思う。
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