楊貴妃と言えばクレオパトラ、小野小町と並ぶ世界三大美人の一人として有名だが、その名を冠するメダカがいる。綺麗なオレンジ色の楊貴妃メダカだ。 10年ほど前、仙台に住んでいたころ、ビオトープに惹かれ庭の片隅に水草などで整えたひょうたん池を設置した。そこで泳ぐメダカやヌマエビを眺めるのが小さな楽しみだった。沼で採ってきた野生のクロメダカを入れていたが、今は絶滅危惧種に指定されている。メダカは比較的環境の変化に強く、池の中で生態系のバランスがとれれば餌やりも不要だし、冬の氷点下でも氷の張った池の底で冬眠して生きていた。そんな経験もあり、秋田に戻りクリニックでもミニビオトープを作りたかった。しかしさすがにクリニックに池を作るのは無理があり、大きめの白い睡蓮鉢を入り口前のスペースに置くことにした。以前のノウハウで底石を入れ水景を整え水を張り、あとはメダカの入手をどうしようかと思っていたところ、ペットショップで楊貴妃に出会った。今は空前のメダカブームになっているようで、品種改良された様々な観賞用メダカの水槽がアクアリウムコーナーに並んでいた。その中で、ひと際目を引いたのが、オレンジ色に輝く楊貴妃メダカだった。天然のクロメダカもいいが、これなら白い睡蓮鉢に映えると思い、楊貴妃メダカを10匹購入した。期待通り、睡蓮鉢に入れると、太陽の光の下でさらに綺麗にオレンジ色に輝いていた。それから毎年、春になると睡蓮鉢の水作りをしている。底土をどうするか、水草の種類をどうするか年々試行錯誤している。環境が悪ければ睡蓮鉢の水が濁ってしまう。澄んだ水、緑の水草、その中でオレンジ色の楊貴妃達が元気に泳いでいるのを観ると嬉しくなり、日々のストレスも解消してくれる。 さて、飼うからには増やして楽しみたいのが飼育者の願望である。メダカは春から夏にかけて抱卵しては水草に卵を産み付ける。ホテイアオイを浮かべておくと、時々その根毛に1~2mmの卵が10個前後見つかる。大事なのはそれを見つけたらホテイアオイごと、別の睡蓮鉢に移すこと。親メダカから隔離しないと卵や稚魚が食べられるからだ。10日程して、5mm程の針子と呼ばれる稚魚が泳いでいる姿を見付けるとなんとも嬉しい気持ちになる。増えた楊貴妃メダカは睡蓮鉢の他、院長室の小型水槽でも元気に泳いでいる。待合室には開業祝いで友人から頂いた熱帯魚水槽があり、いつの間にかアクアリウムが趣味の一つになっている。冬の間は睡蓮鉢が凍ってしまうため、楊貴妃メダカは熱帯魚水槽に移し、ネオンテトラやレッドビーシュリンプ達と共に待合室を賑やかにしてくれている。メダカは自然界では冬の間は冬眠しているが、熱帯魚の水槽の中では冬の間も卵を産む。抱卵を見付けては採卵し院長室の小型水槽に移し、針子の誕生をみて癒されている。 秋晴れが続いているがもうすぐ冬がやってくる。そろそろ外の楊貴妃達を暖かい水槽に移してあげなければ。
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