秋田市医師会報の編集委員に加えていただいてから約10年が経過した。以来、校正の仕事に携わることが多くなり、普段でも他人が(自分のものは気にならない)作成した文章の誤字脱字や、言葉の言い間違い、おかしなアクセントなどが妙に気になるようになった。方言によるものは仕方なく思う。自分自身も秋田生まれの秋田育ちであり、秋田弁はアクセントに関しては比較的、標準語に近いのではないかと思っているが、それでも、時々県外に出ると差異を指摘されることがある。 標準語の単語のアクセントは頭高、尾高、中高、平板に分けられるらしい。一昔前には、「若者言葉」の一つとも呼ばれた元来頭高であるべき言葉を尾高あるいは平板に話すアクセントがとても気になった。たとえばクラブ、バイク、チーム、アニメ、彼氏・彼女などである。ところが慣れというのは恐ろしいもので、いつしか自分でも知らず知らずに同様に話していることがあるのがどうにも恥ずかしい。 最近気になっているのは国会の答弁などで議員の先生たちが話している誤った頭高アクセントで、雇用、財政、判決、行政、背景などに代表される。頭にアクセントをおくことで言葉の強調をしているのだろうか、はなはだ違和感を覚える。そしてどういうわけかニュース番組でもアナウンサーやキャスターもが同様に話すことが多く、日本語の模範であるべき話し言葉のプロとしていかがなものかといつも感じている。 何より最近気になるのは研修医の先生たちの言葉の使い方だ。 以下の現病歴。 「昨年の検診で、胸部異常陰影を指摘されたが放置していた。最近、咳嗽が多くなり、近医を受診したところ、胸部X線写真で肺癌が疑われたため当院に紹介された」 この研修医バージョン。 「昨年の検診で胸部異常陰影を指摘されるも放置。最近咳嗽多くなり近医受診、胸部X線写真にて肺癌疑いとなり、当院紹介」 なんともおかしげな日本語である。しかし、不思議なことに、大部分の研修医は上記のような体言止め、助詞の欠如、「にて、なる」を多用した日常ではあまり聞き慣れない文章を作りプレゼンテーションしている。まさか医学部の授業でこのような言葉を教える訳はないし、医学論文などでもこのような表現は見かけない。通常とは明らかに異なる言語なのに、医師として働き始めてから自然にこうなって来るのだろうか。となると、われわれ指導医の教育がおかしいということになってしまうが、原因がよくわからない。まずは、ことあるごとに訂正を求めてはいるが、いずれ原因を突き止めてこのヘンな日本語は根絶したいと密かに思っている。
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