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<ペンリレー>

発行日2018/04/10
市立秋田総合病院  片寄 喜久
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楽しい抄読会、かな
 
  終わりのない手術がないように、春の来ない季節はなく、長い冬も終わりやっと春が来ました。この原稿が発刊される頃はすでに桜も散り、新緑の頃でしょうか。冬はからだを動かすことも少なくなり、お酒の量が増える季節ですが、そんな時ふと医師となって早28年目、あと何年働けるのかな、と思うときがあります。今まで若かったと思っていた周りの方々も、飲み会ではやれ手術したの、膝が痛いだの、年金がどうだの、今まで決して話題にならなかった話で盛り上がるようになって来てしまいました。光陰矢のごとし、とはよく言ったものです。先人はすごい、温故知新でもう少しがんばろうと思っております。
  さて、齊藤礼次郎先生からペンリレーを依頼され、何がいいかと考えていました。前回は東日本大震災後で、「原発のうそ」を書かせていただきましたが、締め切り直前にならないと重い腰が持ち上がりませんので、いつもぎりぎりまで悩んで焦っております。学会も同様で締め切り直前登録は日常茶飯事、この性格は死ななきゃ治らないのでしょう。
  あれこれ思案しているうちに思いつきました。今までずーっと週1回の抄読会に参加して、自分も今まで沢山の論文を読んできました。論文選考の基準は、著者が日本人以外であれば、内容に制限はなかった抄読会が多かったです。と言うことで、今まで読んだ論文で興味深かったものを紹介してみたいと思います。自分の偏見で選択しておりますので、医学的にどうかな、という論文も含まれておりますので、その点はご容赦くださいませ。

  まずは、アメフト選手の引退後の死亡に関する調査を行った論文です。
Atheendar S. et.al Association Between Playing American Football in the National Football League and Long-term Mortality, JAMA. doi:10.1001/jama.2018.0140 Published online February 1, 2018.

アメフト選手の死亡率は一般人に比べて低いと言われていますが、セレクションバイアスの問題もあり、確実なデータとは言えないようです。そこで1987年選手によるストライキのため、シーズン中プレーが出来なかった期間に、NFLオーナーたちは、代替え選手を招集しリーグ戦を戦った時期があります。この代替え選手と、通常にプレーした選手の引退後の死亡に関して、約30年わたって追跡調査した結果が掲載されております。結果としては、両群間で死亡に関する有意差はなかったという、negative data でした。しかし、この調査を行おうと思った動機、費用、人力などを考えると日本では考えられない調査だとつくづく思いました。それもAMAが行ったものですので、それほどNFLを含むアメリカの4大スポーツに対するアメリカ人の興味の深さを思い知らされました。ちなみに、NFLと代替え選手の死亡率順位は、NFL 1心・代謝疾患、2交通事故、3不慮の事故、代替え選手は1心・代謝疾患、2自殺あるいは暴力、3癌と、両群で若干の差があるのも興味深いところでした。両群間でプレーしている期間が全く違うので、どうしてもセレクションバイアスが介在しますが、一般人との比較よりは、よりしっかりしたデータですね。

  次は、NEJMに掲載された論文です。
Els van Nood, et al. Duodenal Infusion of Donor Feces for Recurrent Clostridium difficile. N Engl J Med Jan. 16, 2013.

Clostridium difficileによる腸炎は再燃率も高く、そのコントロールには難渋した経験がある先生方もいらっしゃると思います。標準治療はバンコマイシンの内服ですが、再燃例ではバンコマイシンのみのコントロールは不良とされています。そこで筆者らは正常人(どんな基準なんでしょうか)の糞便を濾して、その上澄を生食で薄めた後、十二指腸まで挿入した胃管から注入するという方法を用いております。
①バンコマイシン14日投与群 vs ②バンコマイシン4日+腸洗浄+上澄4日間 投与群 vs ③バンコマイシン14日+腸洗浄 の3群比較です。治癒率は ①31%、②81%、③23%と、有意に②の糞便上澄を投与した群での治癒率がアップしております。

患者さんからすると、腸炎を治すためにわらにもすがる気持ちで、治験に参加したのでしょうが、実際大変だったでしょうね。上澄を作る方の努力も並々ならぬものだったことは想像に難くないですね。現在はカプセル製剤が発売されていますので、ご安心ください(っていったい何に?)。副作用はほぼすべての患者さんが下痢を起こし、その他腹痛やげっぷなどでした。上澄を投与された患者さんのその後の腸内細菌叢は、ドナーの方と同様になったことも確認されております。IBSに悩む方にも応用できませんかね?

  お次は、ちょっと怖いお話ですが、爆弾テロに関するメタアナリシスです。
Edwards DA, et al. Forty years of terrorist bombings ? A meta-analysis of the casualty and injury profile. Injury, 47 : 646-652,2016.

宗教的な問題も含んで、我々日本人には爆弾テロ、特に自爆テロはなかなか理解できないものです。この論文では、Global Terrorism DatabaseやPub Medなどからデータを収集しております(最近は多いですね、この手のデータ収集法:前記のアメフトも同様の手法でした)。1970年から2014年まで、爆破テロは59,095件登録されており、その内自爆テロは約5% 約2900件でした。
1回の自爆テロでの平均死亡数は、10.16名、負傷者数は24.16名とテロ全体の1.14名と3.45名と比較して、明らかに受傷者数が増えております。最近は自爆テロの割合も高くなり、負傷者数も多いと言うことから、怖い話です。日本では古くは、東アジア反日武装戦線「狼」による三菱重工爆破無差別事件や、オウム真理教などによる地下鉄サリン事件が有名ですね。日本も決して安心ではないのです。また、中東ではジハードと言う概念で、子供や女性を自爆テロに使う手法は絶対許せないものですし、テロのない世界になってほしいものです。

  最後のしめはやはりゴルフ関係?でしょうか。ゴルフにおけるACL損傷に関する論文です。ACL再建をした自分にはとても興味のある論文でした。最も自分の損傷理由は、職員対抗院内バレーボール大会でしたが。
Purevsuren T, et al. Fatigue injury risk in anterior cruciate ligament of target side knee during golf swing. J. Biomech. 53 : 9-14, 2017.

ゴルフの過度のプレーや練習は、ACLバンドルへの損傷蓄積を招き、結果的にACL傷害を惹起すると言われております。心当たりのある方も多いのでは。この論文のいいところは、多肢体下肢モデルを用いた事と、本物の10人のプロゴルファーで実証したところでしょう。詳細は専門家にお任せしますが、関節角回転、力、モーメント、目標側膝関節のACL上の力およびひずみを調べています。ACLの力と歪みは、フォロースルーフェーズのボールインパクトの直後に短時間で最大値に達するとのことです。簡単に言うと膝の外転モーメントが増加し、ACLの負荷が増加することなのでしょう。十分な休息と筋力増強などを適切にすることで、ACLの疲労蓄積をある程度予防できそうですが、現実は難しいところですね。調子の悪いときには、無理せず安静、除痛、筋力増強がいいのでは。

  とりとめの無い内容になりましたが、おもしろ論文集でした。皆さんの一服の清涼剤になれば幸いです。

  次回は、医局の大先輩で大学時代の直属の上司、甲状腺に関していろいろご指導いただきました「しかま医院 四釜 俊夫先生」に依頼しご快諾いただきました。よろしくお願いいたします。
 
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