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<春夏秋冬>

発行日2023/04/10
並木クリニック  並木 龍一
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写真は語る
 
 私はサブスクで自宅映画観賞するのが趣味です。最近では世界情勢に危機感を覚えて戦争映画をよく観ます。先日は「父親たちの星条旗」(2006年:監督クリント・イーストウッド)を観ました。冒頭のシーンに新聞の一面を飾る一枚の写真が出てきます。有名なピューリッツァー賞を受賞したジョー・ローゼンタール撮影「硫黄島の星条旗」です。この映画は一枚の写真が社会を動かし、被写体となった兵士の人生を翻弄させるノンフィクションです。(紙面の都合上写真が掲載出来ないので皆様ネットで調べて見て下さい)
 時は1945年太平洋戦争最大の戦闘とされる硫黄島の戦い。樹木は愚か建物一つない裸の島に塹壕を掘って日本兵は潜んでいました。アメリカ海軍は3日間にわたり軍艦より砲撃を加えた後上陸しました。待ち伏せした日本兵から総攻撃を受け多数の死傷者を出しながらも制圧目標である摺鉢山の山頂を確保、勝利の証として星条旗を打ち立てました。その旗を立てる6人の兵士の写真が「硫黄島の星条旗」です。実は最初に立てた旗は海軍長官の要求により外され、交換された2番目の米国旗を掲げた場面を撮影した写真です。
 この写真は長引く戦争に辟易していたアメリカ国民に感動と勝てる希望を与えました。戦費が底を付いていたアメリカ政府は生き残った3人を呼び戻し戦争国債発売キャンペーンに同行させました。「硫黄島の英雄」ともてはやされ国債は完売しましたが彼らは英雄と呼ばれるのを嫌い、スピーチでは本当の英雄は戦死した仲間だと言い続けました。そして戦争が終わり3人はそれぞれの道に進みますが、英雄は過去のこととして忘れ去られ、戦死した仲間たちのフラッシュバックに生涯悩まされるのでした。
 戦争をテーマとした写真はその他にも、長崎へ原爆投下後の「焼き場に立つ少年」、ベトナム戦争の「ナパーム弾の少女」などが有名です。いずれも戦争の恐怖を語り社会を動かした写真です。写真の発明により人々は歴史を動かした人物、場所、出来事を正確に残す手段を獲得し、これにより19世紀以降の文化と視覚体験は大きく変容しました。一瞬の切り抜き映像である写真が多くのことを語ると知るようになりました。インスタグラムに代表される現在流行りの写真文化も悪くありませんが、「映え」を求めて盛りすぎたり、事実を歪曲させるのは写真の本質とは違うように思えます。私はやっぱり事実を正確に伝え、何かを語る写真が好きですね。
<最後に>長年にわたり会報表紙の写真をご投稿頂いた米山泰夫先生がこの4月号をもってご勇退されます。雄大な風景から繊細なお花までいつも素敵なお写真で表紙を飾って(語って)頂き誠に有難うございました。会報編集委員会より厚く御礼申し上げます。
 
 春夏秋冬 <写真は語る> から