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<春夏秋冬>

発行日2021/12/10
東通り こどもとアレルギーのクリニック  小松 真紀
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3回目のPCR
 
 3回目のPCRは検査を受けたわけではありません。今や「PCR」という単語は誰もが知るようになり、「PCR」=「コロナの検査」というまでになっているかもしれません。これまでPCRと濃密に関わることが3回ありました。PCR法を開発したキャリー・マリス博士はノーベル化学賞を1993年に受賞していますが、その頃PCRを知らなかった自信があります。それから約10年後に院生になってPCRと遭遇しました。当時は朝から晩までPCR漬けの日々でした。感に頼る素人に近い手技では満足のいく結果が得られるのは運任せで、なんとなく反応時間や温度設定を微妙に変えながら試行錯誤し、それでもうまくいかない時にはプライマーの選択からやり直さないといけないことも多々ありました。当時研究室にはPCRの機器は2台しかなく使用の順番待ちと使える番になったらセットして開始すればあとは自動で行ってくれるのでほとんどが待ち時間で費やされました。
 早川書房の「マリス博士の奇想天外な人生」という文庫本があります。マリス博士は車でドライブ中もすれ違う車のナンバーの認識を宇宙からするようなものと感じたり、テープが飛び出したカセットテープをどこかを取り掛かりとして直していく経験など日常の何気ないことにも気に留め、DNAの配列解読法を考えていました。更にコンピュータープログラミングの心得があったこともあり、一部の入力で一致する単語を認識し、「0」か「1」の組み合わせで瞬時に指数関数的に計算が行われる仕組みに、DNAの持つコピー機能といったことが一つになりPCR法が見出されました。
 大学院生活も終わり自らPCRを行うことはなくなりましたが、その分臨床でお世話になることが増えました。現在の県健康環境センターが衛生研究所という名称だった頃、ウイルス分離の結果が判明するのは数ヵ月後で、「分離なし」という最終報告も少なくはなく、臨床への活用と公衆衛生上のリサーチとの時間的ずれにもどかしさを感じることがありました。その後リアルタイムPCRで数種類のウイルスの検索が同時に行われるようになり結果は数日内で判明し、しかも精度も高まりました。かぜの多くはライノウイルスですが、ほんとに多くの症例からライノウイルスが同定されました。しかし、臨床所見と照らし合わせて「検出」と「起因」との解釈についてもカンファレンスで議論したことや、逆に想定していたウイルスが同定されずPCRといえども完全ではないと感じたことも思い出します。
 3回目は今まさにこの新型コロナウイルス感染です。1回目と2回目の期間に比べれば今の所まだそれらを越していません。このまま越さないで終わってもらいたいものです。
 
 春夏秋冬 <3回目のPCR> から