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<春夏秋冬>

発行日2020/08/10
秋田厚生医療センター  木村 愛彦
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コロナ雑感
 
  本来ならこの会報8月号が出る頃には、東京オリンピック2020で日本中が熱狂していたことだろう。秋田市医師会報でも、昨冬に開催した会報座談会は、秋田のスポーツに焦点を当て盛り上がりをみせた。この夏の特集記事もオリンピックに関連した話題を想定していたが、情勢を鑑み委員会では特集記事の中止を決定した。コロナ禍は五輪の中止のみならず稀なる多大な損失をもたらしたが、この8月には収束までいかなくとも、患者数が減少し日常が落ち着きを取り戻していることを願うばかりである。
  秋田県においては幸い感染者は比較的少なく、大都市圏で懸念されている医療崩壊はおきていないとしてよいだろう。ここでいう「医療崩壊」とは、コロナ感染症の患者の増加とそれに対応するため、コロナ患者、加えて非コロナ患者の診療が手薄になり、救命出来る人に十分な治療が出来なくなることである。実際、欧州や米国では現実のものになっているわけで、イタリアでは医療従事者の感染による人的不足のため、医学生までもが現場の診療に投入されていると聞く。そんな中、現場の医療従事者への感謝とエールのイベントが連日行われたが、医療に対する不信や不満にさらされることが当たり前になっている昨今、どうも違和感を覚えてしまう。まして「ヒーロー」「高い倫理、使命感と自己犠牲」などとまつりあげられるに至っては恥ずかしさすら感じる。
  もとより医療従事者への賛辞は、コロナが大流行になったヨーロッパの各国で、市民から自然発生的に起こってきたものである。これに対し、日本では政府や自治体、企業などによるキャンペーンが主導しているものであることが、どうもしっくりこない原因のようだ。元来、感謝とは人に言われてするものではないからだ。一方、東日本大震災をはじめとする大災害の時も、医療従事者は自身が被災者になるリスクを省みず迅速に被災地へ向かっていった。しかし今回のような、これほどの賛辞のムーブメントが起こったわけではなかった。この違いは何であろうか?一部の地域に限定している自然災害と違い、全世界に広がった新型コロナにより、医療崩壊への恐怖が現実のものになったからではないだろうか。日本の医療は国民皆保険制度を含め、誰でもいつでも高度な医療を受けることができ、世界一のシステムという向きも多い。この日常の医療が壊れれば大変である。この危機感の表れが今回の医療従事者応援につながったと言えなくもないと邪推した。まあ、理由はどうあれ、感謝されることは悪いことではない。もちろん「あなたはコロナと最前線で戦っているわけではないでしょ?」といわれたらその通り。「先生、ありがとう」「元気になりました」このくらいでちょうどいい。
 
 春夏秋冬 <コロナ雑感> から