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<春夏秋冬>

発行日2020/05/10
いちかわ内科クリニック  市川 喜一
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胸突き八丁
 
  今年1月から始まったSARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界各国による懸命の対策にも関わらず拡大し、3月11日にWHOがパンデミックを表明後も感染者数および死者は増加の一途をたどっている。日本でも本稿執筆時点(4月15日)で7都府県が緊急事態宣言に基づく措置を取られているが、連日500人を超える感染者が報告されている。SARS-CoV-2は有症状者の約8割は軽症だが2割が肺炎を発症し、5%が重症化、そして約2~3%が致命的となるという。季節性インフルエンザの合併症を含めた推定致死率が0.1%であるのと比べ、その致死率は明らかに高い。さらに問題なのは、感染者の大多数が無症状に経過をするため、無症候性感染者が意図せず感染を拡大させてしまうことである。「第2次世界大戦以降で最も困難な危機」との国連事務総長の認識表明は、この感染症に対する表現として全く大げさではない。それだけの危機がこの科学技術が進歩した(はずの)21世紀の人類に訪れているのである。
  この危機に対して政府は、4月7日になってから感染者数が急増している7都府県に向けて新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を宣言し、該当地域の住民に対し「不要・不急の外出や「三つの密」(密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、密集場所(多くの人が密集している)、密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる))が重なる状況を避けるように」との「要請」を行った。同様に人との接触を8割減らすことも「要請」されているものの、都市封鎖(ロックダウン)は行われていない。一方、他国の対策を見ると同様の施策ではあるがいずれも罰則を伴い、強い行動制限をかけるものである。報道によると緊急事態宣言を発令された東京・大阪における本稿執筆時の人出は約6割程度削減されているとのことだが、北海道大学の西浦教授の試算では、人との接触8割減では2週間後に感染者の数が落ち着いてくるが、6割減では3か月もの期間を要することになるとのこと。休業要請に伴う所得の減少など経済的な問題に対して、政府は宣言当日に緊急経済対策を決定しているが、罰則などがない「要請」の状況下であれば、人との接触8割減を達成しても国民が生活を維持できるだけの経済的な補償を政府が可及的速やかに行うことが必要ではないだろうか(4月17日追記:全国的緊急事態宣言発令と所得制限なしの補償の方向となり、問題はほぼ解消した)。国民は一致団結し、不要不急の外出を控え、標準予防策に加え飛沫・接触感染予防策を積極的に行うことでこの困難を乗り越えようではないか。そして、われわれ医療従事者も立場を超えて一致団結し、感染者の早期発見・救命をすべく全力を尽くそうではないか。ここからが本当の踏ん張りどころである。
 
 春夏秋冬 <胸突き八丁> から