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<春夏秋冬>

発行日2020/02/10
及川医院  及川 圭介
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アニサキスにご用心!
 
  “胃アニサキス症”のご経験はありますか?
 忘れもしない10年ほど前のことです。私はそれまで経験のない嫌な上腹部痛と嘔気で、深夜に目が覚めました。症状は治まらず朝まで痛みで身もだえする中、昨夜のイカの刺身を思い出し、アニサキスではと頭をよぎっていました。当時某病院の消化器内視鏡センターに勤務しており、とにかく朝を待ち、上司に相談し内視鏡検査をしてもらいました。案の定、アニサキスに噛みつかれ、私の胃粘膜はパンパンに腫れあがっていました。アニサキス一匹を摘出してもらい、翌日には症状は改善しましたが、その辛い体験から、しばらくはイカの刺身は食べられませんでした。
  “胃アニサキス症”の病態の本体は局所のアレルギー反応といわれており、症状にはかなり個人差があります。アニサキスが胃粘膜に刺入しただけでは痛みは出ませんが、刺入部で局所のアレルギー反応を起こし、粘膜の炎症を起こすことで症状が出ます。実際私の胃粘膜は、アレルギーで腫れあがっていましたが、アニサキスに感作されていない人は無症状で、検診の胃透視の写真にたまたま写っていることや、スクリーニングの内視鏡検査でたまたま見つかることもあります。ごく稀にですが、アニサキス抗原そのものに強い反応を示す“アニサキスアレルギー”を発症する場合もあります。その場合は、消化管粘膜への刺入の有無によらず、生きている虫体はもとより、死んだ虫体や魚介類の筋肉中に分泌されたアレルゲンによってもアナフィラキシーなど起こすことがあります。青魚アレルギーと思っている人の中には、青魚ではなく実は“アニサキスアレルギー”である可能性があるようです。我々が目にする2~3cmほどのアニサキスは幼虫であり、成虫は10㎝以上にもなり終宿主のイルカやクジラに寄生しています。その卵が排泄物と一緒に海中に放出され、孵化したところを第一中間宿主のオキアミなどが餌として取り込みます。そのオキアミを食べた第二中間宿主のイカやサバ、カツオなどに幼虫が寄生します。それを我々が取り込むことにより“胃アニサキス症”を発症する原因となります。ヒトは中間宿主ではないのでアニサキスはいずれ死んでしまいますが、刺入部に肉芽腫を形成することがあるので我慢せず内視鏡を受け摘出したほうがいいでしょう。胃を通過し小腸に刺入すると、局所のアレルギー反応や肉芽腫の形成が原因でイレウスを起こすことがあります。
 “胃アニサキス症”は一年を通してみられる疾患ですが、秋から冬にかけてのまさに今が多い印象です。先日はある患者さんが、スーパーで買ってきた刺身パック(イカやシメサバが入っていたとのこと)を食べた翌朝に激しい嘔吐と腹痛を生じ、当院を受診しました。早速内視鏡を行ったところ、なんと16匹のアニサキスが胃粘膜に刺入していました。16匹すべて摘出しましたが、嘔吐したものや消化管を素通りしたものを考えると、いったい何匹取り込んだのでしょうか。それだけの数のアニサキスがいても気付かないものなのかと驚かされました。もちろん、調理にもかなり問題はあったかと思います。
  皆さま方もこの季節、アニサキスにはご用心を。
 
 春夏秋冬 <アニサキスにご用心!> から