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<春夏秋冬>

発行日2019/09/10
平野いたみのクリニック  平野 勝介
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50回目の秋田の桜
 
  昭和45年(1970年)5月3日、第1回秋田大学医学部入学試験が行われた。私が3浪に足を突っこんだ状況での試験は、国立3期校と揶揄された変則日程で、書類審査で絞った倍率は20倍近くだった。旅行のつもりで受けてくるか、の気持ちで5月1日大阪発の夜行寝台特急「日本海」で出発した。B寝台ボックスの6人は全て秋田大学の受験生で、その中のすでに3浪で大柄なSさんのリーダーシップでかなり遅くまで話が弾んだ。6人で受験場所の下見に行き、試験が終わったら皆で名物でもと約束して別れた。私は教育学部3号館の2階か3階で受験した。試験が終わり外に出てみると、昨日は気付かなかった見事に咲いている桜(ソメイヨシノ)を見つけてしばらく眺めた。これ程に見事な桜を、ゆったりとした気持ちで見るのは初めてだった。ほどなく昨日の5人が集まって来て、「散る前に秋田を出ようぜ」の誰かの言葉で、そこを離れた。
  6人の別れは、秋田駅改札口。それぞれが別れて、最後に私とSさんが残った。Sさんは私よりさらに1時間後の寝台車で、私が「お別れだね」と言って改札口を向いた時、Sさんは大きな手で私の背中をバーンと叩いた。
5月15日の入学式には入学試験時の誰もいなかった。
  結婚して子供ができた翌年(1980年)の千秋公園の桜(ソメイヨシノ)が見事だった。千秋公園の桜は1892年に植樹されたとの記録があり、その時の桜は樹齢約90年位となる。その後、豪雪で餌が少ない鳥たちに芽を食べられたからなど言われながら、実際は徐々に樹勢が衰えていった。
  秋田市泉の私のランニング練習コースに深夜、突然に通行禁止の柵ができていた。周りは田んぼばかりなのに「何なんだよ、こんな所に」と思っていたが、その後、工事が始まった。1979年創立の泉小学校である。その時に桜(ソメイヨシノ)も植えられて樹齢は約40年、最近、年々旺盛な樹勢に気が付いた。
  私が住む近くの保戸野千代田町公園は1984年に整備され、その時に桜(ソメイヨシノ)も植えられて樹齢は約35年位か。ここに引っ越した20年以上前の幼木が、近年素晴らしい花を咲かせ青年期への成長を誇示している。
  ソメイヨシノの寿命は60年程度と言われているが、管理を十分に行えば100年以上の老木も存在し、弘前城には樹齢137年を超える日本で最古のソメイヨシノが1本健在で今も花を咲かせている。
  ソメイヨシノの寿命は何か人生に似通って、その時々の出来事や、自分の子供の成長がソメイヨシノの花と重なり記憶され、それぞれの桜が秋田に来て50年の記憶を春になると教えてくれる。50年で一番記憶に残る桜は、昭和45年の入学試験の日に見た桜である。あの日、たった一日の試験で医師になる資格をもらえたのだ。
 
 春夏秋冬 <50回目の秋田の桜> から