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<ペンリレー>

発行日2024/03/10
城東整形外科  阿部 栄二
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黄金の「林住期」
 
 昨年4月、23 年間お世話になった秋田厚生医療センターを辞し、現在はかつて秋田労災病院で苦楽をともにした後輩が運営する有床診療所に週2回ほどお世話になっています。
 同世代の医師は老健施設の管理者や外来診療だけの勤務が多い中、私はあくまでも病状を劇的に変えることが出来、達成感や喜びの大きい(手術ができる)現役の外科医にこだわり働いています。体力や気力の衰えは少し感じますが、ルーペを使えばよく見えるし、手の震えもないので、豊富な経験で得られた知恵を生かして上手に患者を選択し、手術適応を厳選しながら、相棒と週に平均4~6件脊椎手術をこなしています。30~50歳代の頃とは異なり新しいチャレンジを極力控え、安全第一で行っているので、若い頃より手術成績が明らかに向上していることを実感しています。
 「医師の選び方」を特集する週刊誌には、リスクを取らない初老期の外科医の方がチャレンジを厭わない若い世代の若い外科医より手術成績が良いのでお勧めと書いてありましたが、なるほど一理あるなと同感しました。昔から外科医の(現役)寿命は短いと言われてきましたので、70歳過ぎても手術が十分出来ることに自分でも少し驚いていますが、同じ分野で活躍されている全国の同期や先輩方々と交流し励まされながら仕事を続けています。この先何年続けられるか分からないし、今年限りかもしれないという緊張感と健康で現役で働けていることに日々感謝しながら日々を過ごし、整形外科医になって良かったとしみじみ思っています。
 高齢の患者さんの診療に長年関わってきたにもかかわらず、恥ずかしながら退職して初めて気付くことが少なくありません。老後生活の高齢者にとって「家族や社会からのお荷物ではなく、家族や社会に貢献し必要とされている」と日々実感できることが矜持と励みになり、充実した老後の人生を過ごすのにとても大切なことであると実感して思います。腰痛で通院中の腰の曲がった高齢女性患者さんに庭の草取りは腰痛が悪化するのでやめるよう指導しても、頑なに受け入れられなかったことがしばしばありました。当時は良く理解できませんでしたが、今にして思えば、若い人が嫌がる草取りをし、きれいになった庭を見た息子や嫁に褒められ感謝され、自分が家族の一員として貢献してできているとプライドであり、その実感することが必要だったに違いないと理解出来るようになりました。私も現在年金も頂いており、別に働かなくても夫婦2人で生活できるのですが、社会や家族から必要とされていると実感することが老後の充実した人生を送るには必要不可欠なもののだとしみじみ実感しじています。
 幸か不幸か、私も腰椎椎間板ヘルニア、頸椎症性神経根症、五十肩(肩関節周囲炎)、変形性膝関節症と大方の整形外科のcommon diseaseは一通り患っており、このことが現在外来診療で大いに役立っております。かつて限られた時間での多数の患者さんの診療に追われる外来は余り好きでなかった外来診療が、今は年を取り知識や経験も豊かになるにつれその奥深さが分かるようになり、また専属のクラークが記録のコンピューターに入力をサポートしてくれるのでこともあり、患者さんの問診や診察、治療に専念でき、微に入り細に入り指導できるので大変楽しく診療できていますいものに変わりました。
 整形外科の扱う疾患がの殆どが痛みを伴う良性疾患であることもあり、検査データや画像所見で異常を捕らえきれないものが多いので、正確な診断には問診や診察、処置方法などのローテクの練度の差が大きく結果に表れます。他の診療期間で解決されなかった痛みや悩みが消失解消・改善して感謝してくれる患者さんの笑顔が大変な励みになって活力を得ています。また、隔日の勤務なのでは体力の衰えた初老の医師には疲れもストレスも溜まらず、ゆとりをもって、趣味の釣り、登山、スキー、旅行も十分ゆとりをもって出来ています。
 古代インドでは人生を4つの時期すなわち「四住期」、すなわち「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」に分けて考えていたようとのことですが、50歳から75歳までの「林住期」(白秋)は人生の黄昏ではなく黄金期だと五木寛之氏が1998年に出版した「林住期」でエールを送っていますが、なるほどと実感して過ごしている今日この頃です。
 次は秋田厚生医療センターで働いたとき20年近く一生懸命支えてくれた小林孝先生にお願いします。
 
 ペンリレー <黄金の「林住期」> から