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<ペンリレー>

発行日2023/11/10
秋田赤十字病院  飯田 純平
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椎体骨折に対する除痛
 
 秋田赤十字病院整形外科兼リハビリテーション科の飯田純平です。2023年4月から当院に着任しました。このたび、ごしょの耳鼻咽喉科の辻正博先生からのご紹介を受けて、ペンリレーを執筆いたします。面白いことは書けそうにありませんので、真面目な内容をお伝えいたします。
 私は、整形外科の中でも脊椎脊髄外科、またリハビリテーションを専門としています。日常診療では、腰部脊柱管狭窄症、頚椎症性脊髄症、腰椎椎間板ヘルニアに対する固定術、内視鏡手術、脊椎脊髄損傷、転移性脊椎腫瘍に対する手術をメインに行っています。
 当院は第三次救急救命センターおよびドクターヘリを備えており、一般外傷から多発重症外傷、脊椎脊髄損傷患者が昼夜問わず搬送されます。その中でも高齢者の骨脆弱性骨折(大腿骨近位部、脊椎、前腕骨など、骨粗鬆症に基づく比較的軽度な外傷による骨折)の患者様が非常に多いです。特に椎体骨折は高齢者の骨脆弱性骨折の中で最多で、当院でも例外ではなく同様の傾向となっております.現在、日本の高齢化率は29.9%(2022年)で、世界で2番目にとなっております(第1位はモナコの35.92%)。また、秋田県の高齢化率は39.3%(2023年7月)と全国1位で、偏差値は70.24です(最下位は沖縄の19.4%、偏差値18.8)。今後、秋田県の高齢化がさらに進行し、高齢者の椎体骨折はさらに増加すると予想されます。高齢者の椎体骨折は,全国的には約90%で保存療法が選択されているといいますが、疼痛が強く、日常の動作が難しくなる一方で、廃用や認知機能低下を恐れ、疼痛の許容を超えた生活を強要してしまうことが多々ございます。
 現在、骨粗鬆症性椎体骨折の治療法として、経皮的椎体形成術という手術が認知されてきています。背中の左右に約1cmの皮膚切開を行い、外筒を挿入して椎体内部をバルーンで拡張します。その後、拡張した椎体内に骨セメントを充填して骨折部を安定化します。全身麻酔が必要ですが、小さな切開で、比較的低侵襲(約20-40分,出血少量)な手術で、即時の疼痛緩和が期待でき、翌日から体幹装具装用下に立位・歩行制限はありません。この手術を行い、早期離床することで、認知機能低下、尿路感染症、肺炎などの合併症を予防する効果も研究によって示されています。また,長期的には,介護必要度の低下により医療費およびインフォーマルケア費(家族や近親者が無償で行うケア(介護)にかかるコスト)の減少など医療経済的効果もあることが報告されています。この「経皮的椎体形成術」は、痛みの局在を診断し治療する脊椎脊髄外科医として、早期離床し、その人がその人らしく生活するためのお手伝いをするハビリテーション科医として、その冥利につきる治療であります。全ての椎体骨折に適用される手術ではありませんが、椎体骨折による持続的な疼痛でお悩みの患者様は、どうぞお気軽にご相談ください。
 次のペンリレーは、城東整形外科 水谷嵩先生にお願いします。
 
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