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<ペンリレー>

発行日2023/06/10
秋田厚生医療センター  松岡 悟
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還暦すぎて鳥海山~オコジョに会いたい~
 
 還暦になって迎えた7月のある土曜日、自宅でごろごろしてたら、当時山登りにはまっていた妻から怠惰をとがめられ、翌朝森吉山へ連れて行かれた。ゴンドラ山頂駅からの登山道は初心者向けのはずが、頂上を目前にして息が続かなくって座りこんでしまった。「もうちょっとなのに」と妻はあきれ顔。ちょうど頂上から下りてきた小学生の女の子から「もう少しですよ」と励まされ、隣の弟くんから「ここ意外と苦しんだよな」と同情され、すぐ後ろにいたお母さんは笑いをこらえていた。なんとか山頂にたどり着くと、涼しい風が吹き、全方位に視界が開け遠く岩手山まで見えた。小学生に負けまいと、その年は11回登った。
 しかし自分の足ではどの山も楽ではない。登りでは下を向いて次の足をどこに出すかだけを考えて歩く。先を見てしまうとまだかまだかとがっかりしてしまうので、景色も見ずにひたすら一歩ずつ進む。登っている時は何もかも忘れてただ無心に登る。山登りは日常を忘れられるのがいいのだと思う。疲れ切って下山しても、2,3日すると次はどこの山に登ろうかと考えてしまう。
 妻のお気に入りの鳥海山には4回登った。といっても象潟口から入り扇子森まで。週末の鉾立駐車場は朝6時すぎに満車になるので4時起床。それでも登山は天気しだい。1回目は賽の河原で息切れ、2回目は雨で引き返し、3回目は御浜小屋にたどり着いたが暴風で撤退。4回目は翌年の7月、やっと天気に恵まれて扇子森まで登り、眼下に雪渓が残る鳥海湖、笙ヶ岳の向こうに日本海が見渡せた。
 その日賽の河原の岩場に座って一休みしていると、足下にヒュッ、ヒュッと不思議な風圧を感じた。小さな動物が足下を瞬間的に移動したような感覚だった。その動物の姿をとらえることはできなかったが、詳しい知人の話では、手前の岩場にオコジョが住みついており、好奇心が強くひょっこり人前に顔を出すことがあると。オコジョ(ヤマイタチ、準絶滅危惧種)は体長約20~25cmのイタチ科の小動物で、その可愛らしくもりりしい姿から「森の妖精」とか「山の神様の使い」とも呼ばれるが、肉食でネズミやウサギなどを捕食するらしい。鳥海山のオコジョの映像を探したところ、岩場のすき間から顔を出してはすばやく移動する可愛らしい姿を見つけた。この動画が気に入ってしまい、何度も見返して楽しんでいる。
 写真集「鳥海山紀行」(1996年,秋田魁新報社)を、医局の先輩の淡路利行先生から自筆サイン入りでいただいた。長いこと書棚に眠っていたが、鳥海山に登るようになって、その美しく神々しい写真に見入っている。季節を問わず時刻も問わず、変わりやすい山の天気の中、ひたすらシャッターチャンスを狙う「(淡路先生いわく)写狂山人」の姿が目に浮かぶ。由利組合総合病院に勤務していた淡路先生は、その後能代に戻って、いま白神山地のブナ林を撮っている(写真展「白神夢幻」、白神山地世界遺産センター藤里館)。
 5月も中旬となり、もうアイゼンは必要なくなるそうなので、そろそろまた鉾立から登ろうと思う。途中でオコジョに会えることを期待して。

 次回はいつも助けていただいている作左部大先生にお願いしました。
 
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