ペンリレーのバトンをいただいた倉光先生は第一内科時代の先輩であり、開業の際に数々のアドバイスをいただきました。早いものでうちのクリニックも9年目に突入しました。最近開業医のカタチが多様化していると感じましたので、独断と偏見で思いつくまま書いていきたいと思います。(具体的なクリニック名は伏せます)
まず自分の話ですが、秋田大学卒業後、当時はローテート初期研修がまだ県内では主流でなかったため医局(第一内科)に直で入局しました。そして外の病院などで2年研修し大学に戻りました。秋田大学に糖尿病内科が新設されたため異動し、大学や総合病院で臨床、研究、教育などを修行し、専門医、学位、指導医をとり、市中病院に就職後開業というパターンをとりました。新規開業か継承開業かの違いはあっても、おそらく他の開業医の先生もこのパターンが多いのではないでしょうか。よくある王道パターンかと思います。しかし現在は、特に都心部で開業のカタチに多様性があるようです。
まず開業する年齢が早いということです。私は45歳開業でしたが、都心部では30歳未満の開業も見受けられます。つまり卒後数年です。医局に属さず、博士号をとらず、あっても内科認定医をとるかどうかの時期です。最近NHKでコロナ往診のニュースの際よく見るクリニックもそうです。新型コロナウイルス感染症で自宅待機を余儀なくされている糖尿病の脱水気味の独居老人のもとへ若い医師が往診し、スポーツドリンクを飲ませながら診察している姿が放送されていました。医学的にはその時間があるならインスリン入りの生食を点滴したほうが良いと思ったのですが、その場にいって話を聞く行為が重要なのかもしれません。またそれとは別に卒後3年目でコロナ診察のみで開業を決意した猛者もいるようです。99%がコロナ関連の収入だそうで、経営は順調なようです。コロナがおさまったら別の医療をやるつもりのようです。 あと時勢への対応が早いということがあります。東京の新型コロナ後遺症外来で有名なクリニックが印象的です。コロナ感染後の不調で他の病院で調べても原因不明といわれた患者さんが多数受診します。ここで新型コロナ後遺症ですと診断をうけることで患者さんたちは安心するようです。治療は漢方などで行うようですが、ここの先生は経歴上ウイルスや感染症の専門ではなく、消化器内視鏡の専門医のようです。今まで無かったニーズにこたえるというのが重要であり専門医や学位のテーマは関係ないのかもしれません。 最後に在宅専門クリニックです。都心では在宅専門がブームらしいのですが、極めて大規模に行われています。常勤、非常勤を問わずかなり多くの医師を採用して行います。驚いたのは夜間の往診は別に募集したバイト医師に外注しているクリニックがあるということです。これなら院長は連続夜間呼び出しされずに済みますし、バイト医(おそらく大学病院の勤務医)も副業で収入アップができます。従来の往診のイメージ、すなわち長年通院していた患者さんが高齢になり歩けなくなり、かかりつけ医が往診して看取るという形には全くとらわれません。中には創設者が医師でないケースもあります。開業時の最大のネックは資金(借金)ですからスポンサーと条件が合えば開業希望の医師には合理的な形です。
すべてに共通することは、今までの医師業界の常識にとらわれず、時代のニーズにあわせて開業していることです。地元のかかりつけ医として認知されるというよりは今後も変化し続けるというコンセプトかもしれません。あとメディアの取材を積極的にうけ、SNSもフル活用して積極的に宣伝を行うのも特徴的です。秋田ではまだこれらのスタイルは珍しいかと思いますが、あと数年で地方も変わっていくのかもしれません。自分は変われそうにないので、今のスタイルで開業医を続けるしかなさそうですが、「今のあたりまえ」を疑ってみるという柔軟さは取り入れていきたいと考えています。
次回は同期にして勉強会仲間の悪友、秋田赤十字病院の小松田智也先生にバトンを渡したいと思います。
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