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<ペンリレー>

発行日2021/09/10
土崎駅前内科  堀江 泰介
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かぜ患者さんへの張り紙について
 
 医局の先輩であるふくおか内科クリニックの福岡先生からバトンを頂きました。土崎駅前内科の堀江泰介です。最近ふと感じた、「張り紙」に関するお話をさせて頂きます。2021年8月現在、COVID-19の流行は第5波を迎えております。
 当院でも最初は「かぜ症状がある方は院内に入る前に電話かインターフォンでお知らせください」と張り紙を玄関に貼っておりました。それでも椅子に腰かけた患者さんに「今日はどうされましたか」と尋ねると、「のどが痛くてきました」と返されるケースが少なくありませんでした。
 それではと、患者さんの目に付くように張り紙を目立つ色で書き直し増やすことにしました。正面玄関の扉、風除室の中、受付の番号札を取るところ、等々、患者さんの目線の先になり得る位置に、数多く貼らせて頂きました。結果それまでよりは電話での問い合わせは増えましたが、それでも相変わらず何食わぬ顔で診察室に入られる患者様もそれなりにおられます。そういった方々に 「張り紙は見ましたか?」と尋ねると、口をそろえて「気が付かなかった」とおっしゃいます。
 ところが、先日から始まった個別接種を経て一つ気付くことがありました。個別接種のかかりつけ枠の予約を当院でも開始することにしたのですが、それを周知するための張り紙を掲示したところ、 黒字の地味な告知にも関わらずあっという間に知れ渡りました。来院され診察室に入った多くの方にワクチン接種のことを聞かれました。
 つまり、「視界に入れる」ことと「情報を読み取らせる」ことを、私は混同していたのだと思います。私がしてきたことは、張り紙を患者さんの「視界に入れる」ことにしか繋がらず、視界に入れられたとしてもおそらく、「情報を読み取らせる」ことには繋がっていなかったのでしょう。ローマの名将ユリウス・カエサルは「人は自分が見たいものしか見ようとしない」と述べておりますが、「情報を読み取らせる」ことができるかどうかは結局、読み手がもともと持つ「関心」次第なのでは、と考えざるを得ません。この「関心」という言葉には、「見たいもの」をより見えやすくするというpositiveな意味に加え、「見たくないもの」をより見えづらくするというnegativeな意味も含みます。今回のケースでは、ワクチン接種の張り紙は貴重なワクチンを接種する機会を得たい多くの患者さんにとって「見たいもの」であり、かぜ症状云々の張り紙はCOVID-19に感染しているはずがない(感染していてほしくない)と思っている患者さんにとって「見たくないもの」だった、ということです。
 「かぜ症状がある時は必ず受診前にその医療機関に連絡する」という行動様式を市民に浸透させることは重要ですし、行政や報道機関の皆様には、そのために使用できる媒体を可能な限り使用して頂きたいと考えております。しかしこれも、たまにTVで見かける「秋田市民の皆様へ~」のようなCMを大幅に増やすだけでは、もともとCMという媒体を「見たい」と思っている視聴者が少ないが故に、おそらく効果は乏しいでしょう。コメンテーター自体が「見たいもの」としての価値を有するワイドショーが、コロナの感染者数を報じている時間の一部を「かぜ症状があったら必ず受診前に医療機関に連絡するべきです」という話題に変えて頂ければ、状況は僅かなりとも好転しそうな気はします。
 できないことばかり考えても仕方がないですが、自院での解決策については未だに頭を抱えております。「かぜ症状のある方は院外から御連絡を頂ければ、院内での待ち時間が少なくてすみます」など、導線分離に協力することへのメリットを何かしら強調することで、少しでもワクチン接種の張り紙 を「見たいもの」に変えていくのが関の山でしょうか。この誌面をお読み頂いた皆様の中で、何か良いアイデアをお持ちの方がいらっしゃれば是非御教示頂ければと思います。
 次は患者さんの紹介などで普段より大変お世話になっております、村山クリニックの村山仁先生にお願いをさせて頂きました。
 
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