総合討論・質疑応答
司会 今日は様々な角度から眠りについて話していただきましたが、神林先生、動物の眠りについてどんな感想をお持ちですか。
神林氏 まず、眠っている動物の写真やムービーをあれだけ集めるのに園長さんはじめ皆さんご苦労されたのではないかと思います。キリンの映像で、首がガクッと落ちている時はレム睡眠かと思いますが、首が長すぎて睡眠時無呼吸症にならないのかと心配になりました。あとは、草食動物としては食べるための時間を長く取るので睡眠時間が短く肉食動物は逆というのは知識としてありましたが、それがよく分かる良い写真が沢山あって感動しました。
司会 勝田先生はいかがでしたか。
勝田氏 キリンは血圧が高いという話を聞いていて、自分の心臓よりも頭を下げると脳出血のリスクがあるのかなと思いながら見ていましたが、キリンが寝ている映像はテレビでも見たことが無く、動物園には我々の知らない世界がたくさんあるなと思いました。もう一つは、例えば人間はご高齢になってきたときに昼夜逆転現象が多いと思うのですが、元々動物は日中の日が高い間の方が安心感があり、夜は襲われる危険があるから起きていて、人間自体も何かのブレーキが外れたときに、昼夜逆転現象が表れるのかなと思いました。
小松氏 動物の生活は昼夜逆転が多いです。なぜかというと動物は食べる・食べられるの関係で、日中に安心して動ける動物というのは猿や巣の中に入っていける一部の動物に限られ、その他のほとんどの動物は夜行性です。それを取る側の肉食動物も夜行性になります。ですが、基本的には夜眠る方が多いです。
司会 小松園長の話だと冬の寒いときは猿があまり寝てないということでしたが、そこについてもう少しお聞かせください。
小松氏 私たちも改めて「眠り」というものを見たときに、猿山では、季節の良いときは本当にゆったりと寝ていますが、寒いときはじっと耐えるように身を寄せ合っています。ある意味で人間とは違って、自然に馴染んだ形で寝られる体制を持っているのではと感じます。私も睡眠について研究はしていないのですが、四季によって眠りの深さが違ってきているのではという感じを受けます。
司会 今年は冬山での遭難事故も多かったわけですが、冬の猿山について神林先生、どう思いましたか。
神林氏 写真を見ながら、暖房をつけてあげてほしいなとは思いました。冬の遭難はそれとは直接関係ありませんし、あまり詳しくはないですが、強風を受けていると眠るように意識を失っていくこともあるようです。また、小松園長もおっしゃっていましたが、熊の冬眠は、普通の睡眠とはかなり違っていて、基本的には覚醒状態でその中に短い睡眠があり、体力の消耗を防いでいるとのことです。冬山で遭難された方は本当に気の毒と思いますが、人間は動物のようにすぐに冬眠することができないので、そのような状況にならないような暖房や準備が必要だと思います。
司会 どうもありがとうございます。さて、それでは会場の皆様からのご質問に移りたいと思います。まずは安田先生へ「市販されているスプレー式の芳香剤ですが、これは効果があるのでしょうか」との質問です。
安田氏 広い意味ではアロマではありますが、アロマセラピーで使うアロマは人工的な成分が入っていない物を指すので、人工的な成分が入っていると、100%自然の物より効果は期待できないと言われています。
司会 続いて、神林先生にお聞きします。「寝る前に水を飲んだ方が良いという意見もあるのですが、トイレが近くて睡眠障害になる場合はどうしたらよいでしょうか」との質問です。
神林氏 加齢と共に夜間のトイレの回数が増える場合が多いのですが、夜中に二回ぐらいであれば致し方ないかと思います。三回以上になると睡眠にも影響が出てくると思いますので、頻尿の治療も並行して行うと良いと考えています。
司会 次は勝田先生に「睡眠呼吸障害(SAS)は、秋田市、または県内ではどういう所を受診すればよいのか」という質問が沢山来ています。
勝田氏 秋田県全体でも、比較的簡易な検査をされている先生は多くいらっしゃいます。ただ、最初から一番最後のハードな治療を望むことはあまり好ましくありません。全く違う所見で睡眠時無呼吸症かもしれないと不安に思うこともあるので、まずは本当に睡眠時無呼吸症かどうかをかかりつけの医師に相談して、そこから専門の医師に紹介してもらうのが良いかと思います。
司会 勝田先生に更にお聞きします。「寝言やいびき等、どのような症状があったときに医師に相談すればよいのか」という質問です。
勝田氏 実はSASは、秋田市ではおそらく8千人、県内全体では2万人いると言われています。ただし、軽症なものから重症なものまで含んでいますので、やはり主治医に相談していただければと思います。簡易な検査は比較的多くのクリニックや総合病院でやっている所があるので、「気になる」という状態になったら相談されると良いかと思います。
司会 小松先生への質問です。「動物に不眠はあるのでしょうか」
小松氏 動物には精神的な悩みがあまり無いと思いますので、人間の考えるような不眠はおそらく無いと思います。ただ、条件が悪くなると、不眠というよりもぐっすり眠れない状況に陥ってしまい、それが生理的に耐えられないという状況になったとき、色々な障害が発生したり病気になったりします。冬の猿山のようなものは、四季の中で生き抜いていく訳ですから、かえって暖房をしないことが必要だと思います。これは余談ですが、多摩動物園の雄のジョーというチンパンジーが、群れをまとめるのに心労が重なって元気がなくなったときに、飼育係が夜、動物園が閉まってから対話をしながら晩酌をしたそうです。今日、眠りにお酒は良くないという話はありましたが、そのチンパンジーは眠りが深くなって、ぐっすり眠れて元気になったという例もあります。
司会 続いて安田先生に「アロマオイルはいくらぐらいですか、高いのですか」という質問です。
安田氏 安い精油だと1,000円前後です。高い香りだと、バラの精油が2mlで2万円ほどします。でも優雅な香りですし、バラの香りをかぐと、皆さんの感激の度合いが違います。
司会 ぜひ試してみたいと思います。さて、次は一番多い質問です。「現在、睡眠導入剤を飲んでいるが、飲み続けても良いのか」というものです。神林先生、いかがでしょうか。
神林氏 現在多くの種類の睡眠導入剤があり、飲んでいる方も多いかと思いますが、現在の睡眠導入剤は安全性が高いので、頑張ってやめることに労力を割くよりは、日中より良い生活を継続できることを重視した方が良いです。1950年代頃にはバルビツレート系の睡眠導入剤が使われていて、マリリン・モンローが自殺したともありますし、同じ頃、サリドマイドという薬も使われており、これは催奇形性があったために妊婦が飲むと奇形の子どもが産まれるという問題もありましたが、今のお薬は全然違います。頑張ってやめるということを考えなくてもまず大丈夫ですし、連用していると呆けてしまうのでは、という質問もあったようですが、加齢とともに物忘れが増えてくることはありますが、薬が原因で呆けるということは無いと思います。
司会 勝田先生、SASがある場合に睡眠導入剤を使用するのは危険性等はあるのでしょうか。
勝田氏 SASがある場合、睡眠導入剤を投薬するとSASの症状が悪化する方もいます。例えばパートナーに「いびきをかいているよ」と言われたり、いびきをかいて起きてしまったりする場合は、一度検査をされると良いでしょう。先ほどお示ししたCPAP療法をしている場合は呼吸のアシストができるので、たとえ睡眠導入剤を飲んでいても心配はありません。
司会 小松園長にお聞きします。睡眠というと夜ですが、大森山動物園では「夜の動物園」という企画をされています。どういう楽しみ方があるのでしょうか。
小松氏 動物にとって真昼と真夜中はあまり良くないので、薄暮性が多くなっています。これは夕暮れ時と朝方に特に活発になることで、夜の動物園は、睡眠をご覧になっていただくというより、夕暮れ時に活動している様子をご覧になっていただきたいという企画です。ただ、夜の動物園はライトを照らします。そうすると、いつもは日が暮れたら眠りにつく猿たちも少しリズムが狂ってしまい、人間が夜型になるように引きずられることもあります。
司会 続きまして、安田先生、「アロママッサージというのは、秋田市でもやっているところは多いのでしょうか」という質問です。
安田氏 個人のサロンはたくさんあると思いますが、大きいところでは、本格的なアロマセラピーをやっているところはあまり見かけないと思います。
司会 次は、神林先生に「子どもの不眠について詳しく知りたい」という要望が届いております。
神林氏 子どもの不眠というより、睡眠時間が遅くなっているということだと思いますが、幼稚園に行く前の子どもの方が、睡眠時間が遅めというデータがあります。幼稚園に行くというメリハリが無いので、親の生活に引っ張られて夜更かししてしまうお子さんが多いです。幼稚園に行くようになると、朝決まった時間に起きるので早寝になるということが一つありあす。また、小学生高学年でも夜の10時、11時まで起きている人がけっこういるという時代になってしまいましたが、それは親の生活時間に引っ張られている部分が大きいので、可能であれば子どもと一緒に早めに寝て、親はその分早起きする等しないと「早く寝なさい」と言うだけでは子どもはなかなか寝ないと思います。先ほども言いましたが、普段寝る時間の2時間くらい前が一番覚醒度が上がります。私も高校生のときは勉強が捗り始めるのが夜で、寝る時間が遅くなりがちでしたが、結局、翌朝起きられないということがよくありました。長期的に見て、睡眠時間を確保しないとまずいということを理解して、ある程度の時間になったら寝ることを心がけ、特に小さい子どもを早く寝かせたいなら、一旦一緒に寝て親は後で起きたり、一緒に寝て早起きたりすることが一つの手段かと思います。
司会 インターネットやスマートフォンが普及し、寝る前に見ている方も多いでしょうし、私も好きなのですが、それは眠りに影響はあるのでしょうか。
神林氏 眠れるのであれば大丈夫ですが、それによって睡眠時間が徐々に遅くなってしまうということであれば控えると良いでしょう。パソコンの明かりというのは実はあまり明るくなく、テレビの方が明るいくらいです。ですが、パソコンは距離が近くなりますので、不眠がある方は控えた方が良いです。
司会 続いて、フロアからご質問を受けたいと思いますが、何かございませんか。
質問A よく新聞や雑誌に安眠枕というような広告が載っていますが、こういう枕を使うとよく眠れるのでしょうか。
神林氏 広告の枕がどういう枕かは分かりませんが、確かに様々な枕が市販されています。枕は仰向けに寝るときと横向きに寝る時で理想的な高さが異なりますし、また、低反発枕だと夏は暑苦しいけれど冬は暖かくて丁度良い、といったことがあります。この場で一概にこの枕が良いとは言えないので、ご自身でお試しいただいて結果を教えていただければと思います。
司会 神林先生、「睡眠学習は効果がありますか」という質問がきています。寝ている間に英語を聞くだけでマスターできる、というようなことはあるのでしょうか。
神林氏 そうだったら理想的ですが、残念ながらそういうことはありません。ただ最近の研究で、睡眠中に音を聞かせて、それを翌朝に再現できるかを実験したところ、無意識の中でも少しは記憶にとどまっているようです。ただ、寝ている間に英単語が繰り返し流れているというのは、不眠にこそなれ、単語を覚える効果は現状では無いと言うことになっています。
質問B 私の眠る時間は3時間なのですが、これは短いでしょうか。
神林氏 もし3時間の睡眠で日中の活動や生活に問題が無いのであれば、無理に6時間~8時間寝なければならないということではありません。平均的には7時間くらいで、多くの方はそこからプラスマイナス2時間程度、5時間から9時間の睡眠を取っているということです。睡眠時間が短いから、あるいは長いからそれがダメということではありません。
質問C 日野原先生はうつぶせ寝で睡眠を取っているという記事がありましたが、うつぶせ寝は健康に効果があるのでしょうか。
神林氏 動物の中で、仰向けで寝るのはおそらく人間だけと思います。うつぶせ寝の方が、気道が確保されて睡眠時無呼吸症にもなりにくいですし、そういうことで日野原先生もうつぶせ寝をされているのかもしれません。ただ、現状としてうつぶせ寝のための寝具は非常に限られており、ベッドに穴が空いているような寝具になりますが、一般の方が手に入れるのは難しく、うつぶせ寝が一般化するのは難しいと言えます。類似するとすれば、横向きで、ややうつぶせ気味で寝ることです。睡眠時無呼吸症の方で、姿勢を変えることで無呼吸を防げるということを体感的に感じていて、うつぶせ寝をしている方もいます。もう一つ、生まれたばかりの赤ちゃんは、呼吸や心臓が止まってしまうことがごく稀に起こりますので、仰向けの方が安全と言われています。
司会 まだまだ質問も尽きないと思いますが、そろそろお時間となりました。ここでご来場の皆様に4人の先生方への盛大な拍手をお願いいたしまして、シンポジウムを終了させていただきたいと思います。
総合司会 田中先生、またシンポジウムの先生方、どうもありがとうございました。本日は様々な視点から「眠り」を考えてみました。是非、今日のこの会が皆様や皆様のご家族のより良い眠りの一助となることを期待しています。本日はどうもありがとうございました。
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